闇。
山での闇は怖くなかった。
兄弟が、母上が、みんながいたから。
『それで・・・・そ・・・・平・・・・』
途切れ途切れに声がする、
知らない声、
私は山に居たはずなのに、
遙か彼方で・・・ 第5話
「・・・・夢ではなかったんだな」
『おや、気がつかれましたか、僕は武蔵坊弁慶です、
よかったらお嬢さんのお名前も教えていただけませんか?』
声のしたほうを見てみると、人当たりの良さそうな顔をした
男が布団の脇に座ってこちらをみていた。
「・・・・」
『・・・・答えたくありませんか』
「こないだの赤い髪のやつは?」
『・・・ヒノエの事ですか?』
答える代わりに少しうなずく
『彼ならもう少しで・・ほらね』
遠くから勢いのある足音が聞こえる
同じように途切れ途切れ会話も、
『山・・・・・の姫・・・目・・さましたのは本当か・・・』
すっと襖が開かれて赤い髪の男が現れた。
『やぁ姫君、具合はどうだい?まだ傷は痛む?』
「・・・・此処は何処だ。」
『此処は熊野、そしてこの屋敷はオレの家』
「く、まの?」
『熊野をしらないのかい?』
「知らない・・・物心付いたときには山にいた」
『なるほどね・・・・それで、姫君そろそろ名前を教えてくれないかい?』
「・・・・」
『僕が聞いても教えてくれないんですよ』
『あんたなんかに名乗る女なんかオレには興味ないね』
『おや、ずいぶんな物言いですね』
ささいなやり取りに棘を感じるが、
そのやり取りが群れの中にいた兄弟同士のじゃれ合いを思い出して
少し警戒が解けた気がする。
「・・・・・・・だ」
『『え』』
「私の名はだ」
『それでは、これからはさんとお呼びしますね』
「ああ」
赤い髪のほうは、乗り遅れたように少し拗ねた顔をしながらこちらを見ている
「姫君などではないからな、普通に名で呼んでいい」
『オレはヒノエ、これからはって呼ぶよ』
「熊野は私の山からはどのくらい離れている?」
『っと、その様子だとオレの嘘見抜いてるんだね」
「当たり前だ、お前からは山の匂いがしない、そっちの奴からは少しするが私の山の匂いではない」
『ヒュ〜さすが、オレが目をつけただけはあるね』
「傷は大分ふさがった、少しでも早く山にかえりたいんだ」
[信じられないのなら、怪我を治してから見に行くといい]
ヒノエが言った言葉だ、
未だに山がなくなったなど信じられるわけが無い。
『どうなんだい?弁慶』
『そうですね、大分傷はふさがってはきてますが、まだ動ける状態では・・・』
「ここからの距離と方角だけ教えてくれれば一人で行く」
『それは駄目だね』
「っっ何故だ!そもそもお前と私は関係がないはずだ、私に関わるなっ」
『落ち着けって、まずはお前の山が何故焼かれたのか・・・それからだ』
そうだ、そもそも何故私達の山が・・・・
ヒノエは、静かに、そして淡々と話し出した。