母が逝ってしまってからは、
群れの中の火が消えたように兄弟達が静かになってしまっていた。
日に日に衰弱していく物までいる始末だ。


遙か彼方で・・・

第2話

「どうした・・・水を持ってくるから、元気をだすんだ。」

狩りに出てる若い兄弟達を待ってる間に身篭った若いメスが苦しそうに一声鳴いた。
もうすぐ出産が始まるのかもしれない。
慌てて水場まで走ると、見たことのない馬がこちらを警戒していた。
それもそうだろう私の傍には大きな狼が3頭、馬から見れば天敵なのだから。

「お前を襲うつもりはない、安心しろ」

まぁ、人の言の葉など獣には通じないが一言添えてから水を汲んでいると
低く唸ってから馬も水を飲みだした。

「ふっ変わった馬だな」

その時同じように水を飲んでいた狼が唸り声を上げたので
視線の先を追うと、
いつぞやかの男、九郎といったかしきりにキョロキョロ
して何かを探しているようだ。

「何か落し物か?源氏」

「っおお、やっと逢えた!!お前を探していたんだ!!!」

嬉しいと顔に書いてもおかしくないほどの笑顔で小走りに走ってくるが、
唸り続ける狼に軽く頭を下げて不安毛である。

「こないだいっただろう、また来ると・・・そんなに怒るな?」

でかい犬ぐらいにしか思っていないのか、
今にも噛み付きそうな兄弟をワシャワシャとなでると
にんまり笑ってる。
だが、今はそんな事をしている場合ではない。

「すまないが、今はいそいでいる」

「どうしたんだ?」

「若いメスが産気づいているんだ、戻らな」

「なんだと!!!!では俺の馬に!!!!その水も乗せようっ」

「あっ・・・いやっ・そ」

にべもないまま馬の上、兄弟が心配そうに見ながら後ろを着いてくる。

「大丈夫だ」

しかし・・・この男は本当にかわってる。
つくづく不思議な男だ。

しばらくいくと、狩りから戻った兄弟達が来訪者に警戒しながら迎えてくれた。
誇らしげに獲物を見せようとしてくるので軽くうなづく
すぐにメスのほうへと近づくとお産の痛みからか
白い牙をむき出しにして明らかに警戒している。

「源氏は大丈夫だ、お前の為に水を運ぶのを手伝ってくれたんだぞ?」

今にも生まれそうなお腹を優しくなでる。
命の鼓動を感じる。
命はこうして産まれるのだと・・・

小さなうめきと共に破水。
あたりに鉄臭い匂いが満ちる。

いよいよだ・・・・

「水は・・・・どっっどうしたらいいんだ!!」

源氏はおろおろとしていた、場違いだが笑えた。

「待て、もうすぐ産まれる・・・その時に使う」


1頭。また1頭と元気な産声を上げながら生まれる・・・

おそらく最後の1頭が出た。

産まれたての命を丁寧に舐めあげるメスを見ながら
終わった順に水をかけて綺麗にしてやる。

大仕事が終わったメスは慈しむ母の顔になってちちをあげている。
私の母上も同じ顔をしていたと思うと切なくなる。

「すごいな・・・・命という物は、産まれてくる・・・・逞しく・・・だが奪う事もまた出来る・・・」

一瞬にして全身の毛が総毛だった。
奪う物、奪われる物、母上も奪われた。

「お前は何故奪う・・・・・・?」

「戦だから・・・そんな言葉では駄目なんだろう。
そんな言葉では言い隠せないほど奪ってきた・・・」

「何故人は争う事をやめない・・・こうして命の誕生を喜べるのに・・・何故奪い合う?」

「守りたい物のため・・・か。お前も母上を守ろうとしていただろう?」

「そう・・・・だな・・・・・守りたい物か・・・・」

「山神の姫、俺はまたこうして出会えた喜びを忘れないっ
その・・・・・・・・お前は人であろう?
一緒に・・・こないか・・・・?」

「私は神ではない。私も源氏にあえて良かった、
だがお前の言うように守りたい物が此処にある。
私はここを離れない、此処を汚す物から守りたいと思う」

「そう・・・だな・・・ではまた来る事を許してもらえるだろうか・・・?」

「・・・・・・・・・・・わかった。
兄弟達にも伝えておこう、もう匂いは覚えただろう。
迷わずこれるように、
きたときには迎えにいかせる」

「っっ忘れる所だったっこれを・・・・」

差し出されたのは綺麗に編みこんである組紐。

「髪がきれいだと・・・綺麗な髪をそのままにしておくのは・・・もったいないだろう?」

「・・・・・・・ありがとう・・・・」

「そろそろ帰る。また来るから・・・・その次は名前で呼んで欲しい」

あぁ・・・意図して名前で呼ばなかったのがばれてるのだな・・・・
母上の命を奪った源氏と呼ぶことに・・・・・

「わかった・・・九郎・・・」

「あぁ!!またなっ!!!」

颯爽と馬にまたがり去っていく姿に胸が高鳴ったのはきのせいだろう・・・・・・・・・
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