生い茂る青葉の匂い――
むせ返るような暑さ――
色付く紅葉の葉――
凍てつく地面の冷たさ――
母上が教えてくれた物――
どんなに過酷な自然の中であっても私はただ、
あの頃に帰りたかった――――
遙か彼方で・・・
第14話
「・・・っぅっ」
目が覚めたらすべて夢ならば良かったと何度も思った。
昨日の出来事はすべて夢だったと――
『目が覚めたようだね・・・』
「!!??」
『そんなに驚かなくてもいいだろ?』
「出て行って・・・」
『・・・随分と嫌われたね』
言いながら近づいてくるヒノエを見て、
身体が自然と強張る。
『そんなに怯えなくてもいいだろ?傷を見るだけだよ・・・』
スルスルと腿に巻いてあった布を外していく、
昨日の着物ではない所を見ると何回か布を取り替えていたようだ。
「・・・・ヒノエ・・・昨日の事は忘れます、貴方はどうかしていた」
『・・・・そうだね』
優しい笑みを浮かべながら手際良く手当てをしていく様子に少し気持ちが落ち着いた。
ヒノエはわかってくれたのだと・・・
『・・・これからははオレの妻だからね、あんな風に抱いたりはしないよ?優しくする』
「え・・・・?」
布を巻き終わった頃そう言うや否や腰を引き寄せられて耳元で囁くように言う
まるで小さな子供に言い聞かせるかのように――
『昨日・・・言っただろ?誰にも渡さないって・・・』
「ヒっっヒノエ!!??」
『お前はオレの妻になるんだ・・・この熊野水軍の棟梁の妻にね・・・』
「――――――っっっ」
『生憎、オレは欲しいものは自分で手に入れに行くんでね・・・そして手に入れたら手放さない』
強い力で抱きしめられて身体を動かそうにも上手く動かないうえに
昨日の情事の名残からか腰に力が入らない。
――――このままでは私は――――
頭の中に強く警報が鳴り響く。
――――このままでは私は――――
「私を山には帰さない・・・と?』
震える声でそう尋ねても言葉は返って来ない。
「あの時、助けてくれた事には感謝してます・・・でも約束したじゃない・・・山へ、母上の所へ帰してくれると・・・」
抱きしめてる腕がかすかに震えている。
「帰りたい・・・山へ・・・母上の所へ・・・」
『が帰りたいのは、本当に母上の眠るあの山か・・・?』
頷いた拍子に頬を涙が伝う。
ヒノエがため息をつきながら口を開いた。
『違うね・・・お前が帰りたいのは九郎の所だ』
「なっ!!??」
『お前を渡しはしない、もうお前はオレのモノだからね』
九郎とはあの山で2・3回逢っただけだ。
一緒に過ごした時間などごく僅か。
九郎と過ごした時間が心地よかった事は本当だけれど、
その時間に戻りたいわけではない。
ましてや、その為に戻りたいなど思ってもいない。
次々に首元にチクリと痛みが走る。
気がつけば私の首筋には幾つもの赤い痣のような痕ができていた。
中には色の薄くなった痕もあって、
昨日もこうして付けたのだろう。
どれだけ話しても、どれだけ訴えてもヒノエはわかってくれなかった。
否
聞き入れてはくれなかった。
ヒノエの欲のままに組み敷かれる―――
頬を物理的な痛みだけではない涙が伝う―――
近くの庭に母上の好きだった花が咲いていた。
そこに母上が居るような気がした。
