月が見える。
赤く・・・
妖艶で・・・
兄弟も見ているだろうか・・・
遙か彼方で・・・
第12話
「ヒノエ・・・なにか怒ってませんか・・・?」
あてがわれている部屋の近く。
重たい沈黙に耐え切れなくなって、
思わず口に出た。
『・・・・』
いつもは饒舌なヒノエがしゃべらない。
不機嫌なのは明らかだ・・・
立ち居振る舞いが昔に戻ってしまっていたのがまずかったのだろうか・・・
部屋の前で控えていた女房に目配せして人払いをさせたのが目に入る
「ヒノ・・・エ?」
『・・・・・・・・わからない・・・かい?』
背中に嫌な汗をかくほど低い声で言われて
本能が逃げろと警告を鳴らす
後ろは壁
目の前にはヒノエ
唯一の逃げ場所は、壁伝い2歩先の自室。
「ヒノエ・・・私の振る舞いが悪かったのは謝ります・・・」
『・・・・・』
「そのように、お怒りにならないで・・・」
じりじりと二人の間の空間が埋まる。
謝罪の言葉を並べても
ヒノエの機嫌は治らない
むしろ悪くなる。
『・・・・・・・違う』
「え・・?」
突然視界が変わって、自分が抱きしめられている事に気づいた
『オレの前では本当のお前ではないんだな・・・』
「っそっっそれはっ」
『九郎の前では、本当のなのに・・・オレの前では本当のを見せてはくれないっっ』
叫ぶように、泣くように、悲痛な言葉と共に告げられた言葉。
天邪鬼だ・・・と言いたかった・・・
私にそうしろと言ったのはヒノエ、お前ではないかと・・・
でも、どうしてか言の葉に出来なかった。
「ヒっヒノエ・・・苦しい・・・」
『・・・・・・・・』
苦しいほどに抱きしめられて
後二歩先の自室が目に入る・・・
後・・・少し進めれば・・・
さすがに自室に入る訳が無い・・・
あがなうように進めば大丈夫。
少しずつ足を進め部屋の襖の前まで来た。
「ヒノエ・・・今日は・・・もう離してください」
『あいつとはもっと話したいようだったのに、オレとじゃもう嫌・・・なのか?』
「そう・・・言う訳では・・・人に見られてしまいますよ・・・戯れはこれくらいにしてください」
言い終わったと同時に
『お前を見つけたのはオレだ・・・』
先ほどよりも低く、黒く深い声で言われ襖がヒノエの手によって開かれる。
背にあるものを失った二人は倒れこむこむように部屋に倒れる。
最後に言った言の葉が・・・
自室まで入ってはこないだろうという甘さが・・・
この状態を招いたのに・・・
ただ・・・ヒノエの燃えるような髪が月の光に妖艶に見える・・・
九郎が見た兄弟かもしれない狼も今見ているだろうか・・・
そんな的外れな事をを思っていた。