ただただ走った―――
月明かりさえ隠してしまうほどの山を―――
道とも呼べない獣道を―――
転げ落ちるように崖を下ったら―――
僅かに光が見えたような気がした―――
【dilemma】 第五話
『いっ―――』
崖を下った時に出来た至る所に擦り傷が出来ていた。
振り返れば聳え立つ崖。
目の前には大きな沢、転げ落ちるときに僅かに光って見えたのは月明かりが沢に光って見えたのだろう
良くあんな所から転げて生きていた・・・なんて思える高さだった。
周りを見渡しても平家達が追ってくる気配はない。
『なんとか・・・撒けたのかな・・・は無事だったかな・・・』
思う事は村の人達やの事―――
あの状況で私に標的が移ればその間に小さな村の人々なら逃げ出せる。
上手く事が運んでいればいい―――
『早く此処を離れなくちゃ・・・』
なぜならば沢には沢山の獣がくる、
今の流血で沢をウロウロしていればいい標的だ。
着ていた着物の袖を引き裂き、深く切れている箇所にきつく縛る。
勢いよく縛ると、当てた布にじわりと染みていくのが分かる。
『これから・・・どうすればいいのかなぁ・・・』
住む場所も、迎えてくれる人達も、今の結にはもう無い
あるのは静かに流れて行く沢と月明かり、すぐそこには闇が支配する森
沢から少し離れた獣道を伝って下流へと歩を進めた。
思いの他傷が深く次第に意識は薄れて行く。
『今・・・た・・・おれた・・・らっっ―――』
それでも必死に歯を食いしばって意識を保たせゆっくり歩いていたが
張り出した木のの根に足を取られついに倒れてしまった。
極度の出血・・・疲労・・・起き上がる事はもう出来なかった。
『私・・・このまま・・・死んじゃうのかな・・・
もう一回、譲くんに・・・逢いたかったなぁ・・・』
次第に瞼が重たくなって行く―――
ふと誰かに身体を抱えられたような浮遊感を感じる―――
『譲―――・・・くん?』
瞼は重たくてもう開けられない。
それでも、黒い瞼の奥に譲が見えた・・・そんな気がした―――
『やっぱり・・・お前―――――――――』